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東京高等裁判所 昭和30年(う)408号 判決

控訴人 被告人 合資会社東亜洋行 外一名

弁護人 根本祐次

検察官 磯山利雄

主文

本件各控訴はいずれもこれを棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は弁護人根本祐次提出の控訴趣意書記載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左のとおりである。

右弁護人の控訴の趣意第一点について。

論旨は、原判決は本件につき風俗営業取締法第三条及び長野県風俗営業取締法施行条例第十八条第一号を適用して有罪の言渡をしているけれども、風俗営業取締法第三条は条例により規定し得べき範囲を限定しており、右長野県条例はその範囲を逸脱しているから無効である。したがつて、右条例に基いて被告人らに対し有罪の言渡をした原判決は破棄を免れない、というのである。しかしながら、風俗営業取締法第三条は「都道府県は、条例により、風俗営業における営業の場所、営業時間及び営業所の構造設備等について、善良の風俗を害する行為を防止するために必要な制限を定めることができる。」と規定し、必ずしも、都道府県条例による善良の風俗を害する行為を防止するために必要な制限の範囲を右列挙にかかる風俗営業における営業の場所、営業時間及び営業所の構造設備のみに限定しているものでないことは、同法条の規定の体裁からも、また同法がその取締の対象となるべき行為の内容については特にみずから具体的にこれを規定せず、法令又は同法第三条に基く都道府県の条例に違反した行為と規定し、法令には触れなくとも、なお善良の風俗を害する虞のある行為を防止する必要を認め、これに必要な制限を都道府県条例の規定するところに委し、これによつて取締の実を挙げようとしたこと、その他同法全体の規定の趣旨からも、窺い得るところであつて、昭和二三年九月八日長野県条例第八一号風俗営業取締法施行条例第十八条第一号は遊技場(風俗営業取締法第一条第三号の営業)の営業者又は従業者に対し、と博に類似する行為、その他著しく射倖心をそそるような行為をなすこと、又はさせることを禁止するものであり、まさに風俗営業取締法第三条の規定の趣旨に添うものであるから、何らこれを無効とすべき謂れは存しない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 花輪三次郎 判事 山本長次 判事 下関忠義)

弁護人根本祐次の控訴趣意

一、原審に於ては本件被告人等を風俗営業取締法第三条及長野県同法施行条例第十八条一号を適用して有罪の判決をしたのであるが風俗営業取締法第三条には条例の規定し得べき範囲を「都道府県は条例により風俗営業に於ける営業の場所、営業の時間、営業所の構造設備について善良の風俗を害する行為を防止する為めに必要な制限を定めることが出来る」と規定して居る故に之れを平易に解すれば都道府県は右三条によつて営業の場所の制限、営業の時間の制限、営業所の構造設備については制限出来るが長野県施行条例第十八条一号に定むるような規定は法第三条では出来ない筋合である故に長野県施行条例第十八条一号は右法第三条の規定の範囲を越えたもので無効である。原審では第三条の規定は例示的規定であるから県条例は有効のものと解するのであるが第三条は例示的規定とは解することは解釈を誤つて居るものと思料する。従つて被告等両名を有罪としたことは失当である。

二、風俗営業取締法第八条には「法人の代表者法人又は人の代理人、使用人其他の従業者が法人又は人の営業に関し前条の違反行為をしたときは云々」と規定してある然るに本件被告人東亜洋行の場合は其の従業員である被告人北沢勝が東亜洋行の指揮命令には何の関係もない赤羽功と云う第三者に唆かされて本件のハリスチユインガムを買つたもので被告東亜洋行の営業遂行には何の関係もない然るに之れを被告東亜洋行の営業に関したものと解して被告東亜洋行の有罪を認定したのは不当である。

三、其他原審に弁護人より提出の弁論要旨を参照されたい。

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